失感情症: アレキシサイミア (Alexithymia)

「人の気持ちはわからなくても、自分の気持ちくらいはわかっている」
こう思う人も多いでしょう。でも、自分がどんな感情をもっているか、わかっているようで意外にわからないものです。自分の気持ち<感情>がわかりにくい傾向を「アレキシサイミア (Alexithymia/ 失感情症 )」といわれます。

「汝自身を知れ」と古来から言われるように、自分自身の心を知ることは、人間にとって根本的に重要なことです。

アレキシサイミア (Alexithymia) 失感情症 とは

自分の気持ち<感情>がわかりにくい傾向 =「アレキシサイミア(Alexithymia=失感情症)」

この概念は、米国の精神科医 Sifneos(シフネス)が、自身の感情についての分析を言語で行う精神療法を行おうとしても、なかなか深まらない人達があることに気づいたのが発端でした。

たとえば、臨床場面などで、客観的状況を述べる:「ああなって、こうなって…」といったことはすらすら話せるが、
「そのときどんな気持ちでしたか?」
と聞くと答えに窮してしまう、というようなケースがあります。

自分の感情について語ることができなければ、そこから深めていくことはできません。そこで、これらの人達には、言葉による精神療法とは別のアプローチが必要ではないかと提唱したのです。

その後、心身医学では、こころとからだの関係<心身相関> 心身症 に関与する心理的傾向の一つとして、さまざまな研究が行われてきました。

アレキシサイミアの特徴として、次のようなことが挙げられています。

  • 自身の感情や、身体の感覚に気づくことが難しい(鈍感である)
  • 感情を表現することが難しい
  • 自己の内面へ眼を向けることが苦手

つまり、自分自身のこころやからだの状態に気づきにくく、感情の表現も難しい傾向です。
また、外側の客観的事実に眼が向きやすく、自己の内面にはなかなか眼が向かない特徴があります。「自己の内面に眼を向ける」のは、心の健康や心理的問題解決への第一歩となるため大切なことです。

アレキシサイミアの生理的機序

アレキシサイミアの神経生理学的機序として、
情動の処理過程の機能的異常、もっと正確には
・思考、認知、判断などの高次の精神機能を担う<新皮質系>と、
・情動を司る<大脳辺縁系>
との機能的な乖離
が考えられています。
(⇒「脳の機能的レベル」も参照してください。)

そのほかに次のような機序も考えられています。

  • 脳幹部や大脳辺縁系と大脳皮質の特に言語中枢 領域との伝達機能障害が関係している
  • 左右大脳半球の機能の解離がある
  • 右大脳半球で何らかの機能障害がある
  • 発達早期の母子相互の感情交流の欠如などの家族病理が関連する

また、感情に気づきにくい人は体調など身体の状態にも気づきにくく、これらの生理的基盤として「内受容感覚」の重要性が示唆されています。

アレキシサイミアと心身症

たとえば、上司に嫌がらせをされて腹が立つ感情(怒り)を抱いていても、その気持ちを抑えこんでしまい、気づいてさえいないことがあります。それが知らず知らずのうちに積もり積もって、心や身体が悲鳴を上げるのです。

アレキシサイミアでは、抑え込んだ感情が適切に処理されず、身体症状に現れやすいことから、「心身症」に関連が深いとされています。「特に問題ありません」「全て何事もうまく言っています」といいながら、説明できない身体症状が続いている人達に、このような特徴が隠れていることがあるのです。

このような場合は、少しでも感情に気づいて表現できるように援助することが大切です。

子どもは言葉による表現が未発達で、感情の細やかな表現が難しいため、箱庭や絵画などの非言語的アプローチによって、言葉にできないものを表現してもらう、といったことがあります。近年増えているとされる発達障害の一部でも同じです。

アレキシサイミア傾向のある人には、言葉よりも非言語的アプローチ、心理面より身体面の治療から入り、徐々に言葉や心理面に進めていくというプロセスが重要です。

[アレキシサイミア と 情動 の処理プロセス:笑うから幸せになれるのか?悲しいときには泣いた方がよいのか?] へ続く

(Kanbara K, LABs Psychosomatic Medicine, https://psychosom.net/alexithymia, Aug. 2021)

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