RESEARCH

心身の情動プロセスと 自律神経 機能の関係 Relationship between Emotional Process and Autonomic Function

情動プロセスとは、心や感情と身体をつなぐプロセス(平たく言えば、こころとからだの関係についての働き)です。「情動」は、感情に近いものですが、感情よりも言語化しにくい、漠然とした、未分化なものを指します。簡単に言えば、心と身体の中間にあって、それらをつなぐ働きのことです。

アレキシサイミア(失感情症:自身の感情への気づきに乏しい傾向)は、情動プロセスの異常の一つと考えられています。このアレキシサイミア 自律神経 機能の関係については多くの報告があり、総じて アレキシサイミア では、自律神経機能の異常や自律神経系ストレス反応の逸脱があるとされています。つまり、「感情」やその気づきは、自律神経 などの生理機能と密接に関係しています。

この情動プロセスは、主に脳の中の大脳辺縁系という部位が担っています(詳しくは「脳の機能的レベルと心身医学」を参照ください)。身体の恒常性などを担う自律神経も、同じくこの大脳辺縁系が担っています。なので、情動プロセスと自律神経の働きには密接不離な関係があるのです。

内受容感覚 と 自律神経

アレキシサイミアは、「感情の気づき」に乏しい傾向ですが、これは「身体の気づき」がベースになっていると考えられています。身体の気づきとは、自分の体調が良い・悪いなどを的確に把握できることです。心身症では、感情や身体の気づきが低下していることがわかっています。

この身体の気づきの生理的基盤が内受容感覚(身体内部の生理状態を捉える機能)です。内受容感覚と自律神経機能、特にストレス反応との関係についても多数の報告があります。自律神経には求心性機能(身体から脳に向かう感覚機能)があり、これが内受容感覚の入り口ですから、遠心性機能(脳から身体に向かう機能)と同様、内受容感覚と自律神経機能とは深く関係することが、容易に推測できます。

心身の気づきと 自律神経 ストレス反応の関係についての仮説モデル

では、この心や身体の気づきと自律神経機能とは、具体的にどのような関係にあるのか。

我々は、これまでの様々な先行研究の結果や文献的知見、生理的機序や、我々のストレス反応についての先行研究などを総合し、情動及び身体の気づきと自律神経機能の関係についての仮説を提唱しました。

健常人では適度な自律神経トーンのゆらぎがあるが、ストレス関連疾患などにおいては、基線の交感神経トーンが高くストレス反応が小さい傾向があります。このストレス反応の低下やゆらぎの低下が、心身の気づきの低下につながる(もしくは逆に気づきの低下がストレス反応やゆらぎの低下につながる)、というものです。

心身の情動プロセスと 自律神経 機能の関係

自律神経のストレス反応やゆらぎの低下は、さまざまなストレスに対する柔軟な適応の妨げになります。ちょうど、固いものよりも柔らかく柔軟性のあるものの方が、外的な力に対して強く壊れにくいようなものです。生理的な緊張による柔軟性の低下は、心や身体への気づきを妨げてしまい、心身症などのストレス関連疾患につながると考えられます。

情動の気づきと迷走神経反応のフィードバックループ

情動の気づきが生じると迷走神経が亢進する、という負のフィードバックループのモデルがあります。
これは、自身の情動への気づきが感情制御のみならず、身体的なリラクセーション反応をもたらすというもので、このモデルも本仮説を支持します。

自律神経による恒常性調整プロセスは、心身の気づきや内受容感覚と密接に関連するものであり、中枢の脳画像研究と末梢の自律神経機能の評価を併せた、今後のさらなる研究が期待されます。

関連プロジェクト

アレキシソミア<こころとからだの気づき>研究会

文献

Kanbara, K., Fukunaga, M. Links among emotional awareness, somatic awareness and autonomic homeostatic processing. BioPsychoSocial Med 10, 16 (2016). https://doi.org/10.1186/s13030-016-0059-3