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内受容感覚 と 心身医学 (3):感情と身体

内受容感覚 (内受容システム) [Interoception] 身体内部の状態をとらえる感覚です。
「感情」「情動」は、いわゆる喜怒哀楽や緊張、不安、快・不快など、人間の心理的プロセスの根幹に位置する機能です。この心理的プロセスである感情や情動が、身体内部の状態をとらえる内受容感覚と極めて密接な関係にあります。「感情は身体に根ざす」。心身医学においても重要な<感情と内受容感覚の関係>について、みていきましょう。

感情と情動

「感情」とは喜怒哀楽など、心のプロセスの一つです。私達は日々、さまざまな出来事や状況に対応して、喜んだり、悲しんだり、怒ったりしています。

身近な動物でも、機嫌がよかったり悪かったりなど、さまざまな感情がありますが、人間の感情はより多様で複雑です。より複雑な感情を、次元が高いということで、「高次の」感情と呼びます。それに対して、「低次の」感情とは、より漠然とした快・不快のようなもので、これを感情と区別して「情動」と呼ばれることがあります。[※このあたりの用語は、研究者によって揺れがありますが、本記事ではダマシオらの使い方に準じています。]

「情動」は生理的な機能と直結しています。たとえば、身体の不調 ⇒ だるさ ⇒ 抑うつ気分 は、どこまでが生理的な不調で、どこからが心理的な状態か区別がつきません。身体の緊張 ⇒ 精神的緊張感や不安感なども同じです。

●より高次であるとは、より心理的レベルに近く、
●より低次であるとは、より生理・身体的レベルに近い、
というイメージです。

「人は理性では動かず感情で動く」とか「人は感情の動物」と言われるように、感情は私達が生きる上でとても重要です。
近くにいて嫌な感情を抱く人を避けることは危険の回避につながります。私たちの身の上にやってくる人やものに、「近づくか遠ざけるか」を決める上で、理性による判断とともに、感情が大きく関与します。また、<どこに住むか><どの集団に属するか>など、重要な選択をする上で感情が大きな役割を果たします。

加えて、人は社会的な動物であり、豊かで複雑な感情(高次の感情)を介した高い社会性を有しています。社会的に生きる上でコミュニケーションは極めて重要ですが、コミュニケーションにおいても感情が重要な役割を果たします。

このように、行動、判断、意思決定やコミュニケーションなど、人間が生きる上で感情や情動は根源的な重要性をもっています

感情の基盤としての 内受容感覚

この感情という心的なプロセスに、身体内部の感覚である 「内受容感覚」 がどのようにかかわるのでしょうか。
近年、ニューロサイエンスの発達は顕著で、さまざまな心の働きが、脳のどの部位やどのネットワークで、どのように形作られるかが日進月歩で解明されています。その中で、感情形成に関わる部位と内受容感覚に関わる部位(もしくはネットワーク)に、かなり重なりがあることがわかってきました。特に脳の中の「島」と言われる部位が、両者において中核的な働きをするとされています。

日々さまざまな状況の中で体験する感情。何がその感情を左右するでしょうか

まず、外的な状況や文脈は感情を左右します。人にほめられるとポジティブな感情が生じ、批判されるとネガティブな感情が生じます。

加えて、 それに伴う五感などの感覚情報も感情を左右します。 自然に囲まれ落ち着いた雰囲気の公園などでは、心地よい気分になり、喜びなどよりポジティブな感情が生じやすくなるでしょうし、木や花の香り(嗅覚情報)もポジティブな感情を誘発するでしょう。逆に嫌な人の声や動作を見たり聴いたりしていると、ネガティブな気分や感情が生じます。

もう一つ大きな要因は、自身の内的な身体の状態です。女性の月経周期に伴ってイライラや不安が生じやすくなることは、誰しも経験することでしょう。同じ人から同じことを言われても、体調が良いときと悪いときとでは、生じる感情は大きく異なります。体調が良いと快活な気分からポジティブな感情が生じやすくなり、体調が悪いと気分も落ちて、ネガティブな感情が生じやすくなります。

このように、大きくは「外的状況」「内的状態」が感情を左右しますが、社会的文脈などへの反応に加えて、感覚レベルでは、
(1) 外部からの感覚情報<外受容感覚>
(2) 内的状態の感覚情報<内受容感覚>
によって感情が生じると考えられます。
この外受容感覚と内受容感覚の統合は、前述の脳の「島」で行われるとされています。

外受容感覚と内受容感覚の区別は諸説ありますが、厳密には区別が困難とも言えます。外部の状況によって内的状態は変化し、内的状態によっても外部状況の捉え方が変わるなど、混然一体となっているからです。内受容感覚に外受容感覚も含める考え方もあります。また、感情というのはあくまで内的な体験であって、それが言葉や表情に出て初めて他の人に伝わります。

これらを総合的に勘案すると、「内受容感覚が感情形成の基盤になる」と言えるのです。

感情の基盤に身体がある

感情という心的プロセスの基盤に内受容感覚がある=「感情の基盤に身体がある」。これは、心身医学・心療内科や臨床医学においてどんな意味を持つでしょうか。

一つ重要なのは、感情(やその上の高次の心理的プロセス)に身体が根本的に関与することから、メンタルヘルスや感情のマネージメントにおいて、身体状態の評価が不可欠であり、内受容感覚の調整が鍵になるということです。

「ストレス社会」と言われて久しく、ポストコロナ、AIの急速な発展などに伴い、ストレスマネージメントやメンタルヘルスの重要性が高まっていますが、心理的側面「だけ」に注目してカウンセリングなどを行うことは、片手落ちになるリスクがあります。

心療内科の診療でときどき経験することですが、心理的な問題がメインと思われ、そちらに注目していたがなかなかよくならず、実は身体的な問題が見過ごされていた、というケースがあります。

例えば、中年女性で抑うつやパニック発作などの症状に、家族関係などの心理的問題が大きく関与していると思われていたが、実際は女性ホルモン値に異常があって更年期障害の影響が大きかった。それが改善したら心理的な状況もあまり問題にならなくなった、などのケースです。

きってもきれない「こころ」と「からだ」

身体の病気まではいかなくても、体調にはさまざまな波があります。身体の調子が良い・悪いによって心理的な状態は異なるわけですから、心理的な状態のマネージメント=メンタルヘルスには、体調管理も一緒に行う必要があります。少なくとも身体面を意識する必要があるのです。

逆に、心理的な問題が身体の状態に影響するケースもあります。痛みなどの身体症状が長引き、あらゆる医学的検査を行っても異常が認められず、薬などの治療も奏功しないケースで、本人も意識しない心理的な問題が背景にあり、心理的アプローチで改善した、などのケースです。

「感情の基盤に身体がある」というと、身体⇒感情(心)だけのように思いがちですが、感情が身体に及ぼす影響もあります。実は内受容感覚のシステムは、求心性(末梢から中枢に向かう)機能だけでなく、遠心性(中枢から末梢に向かう)機能が大きく関与し、双方向性のシステムであることが脳科学的にも確認されています。

「きってもきれないこころとからだ」心と身体の密接な関係をよく知ることが重要です。そして、内受容感覚が適切になれば、疲れているかなど自身の状態に気づきやすくなり、早目の対処が可能になります。これが、ストレス社会を生き抜く鍵になり、ストレス関連疾患の治療においても重要な意味を持つのです。

(Kanbara K, Psychosomatic Labo, https://psychosom.net/column/interoception3, Oct 2023)

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文献

Kanbara, K., Fukunaga, M. Links among emotional awareness, somatic awareness and autonomic homeostatic processing. BioPsychoSocial Med 10, 16 (2016). https://doi.org/10.1186/s13030-016-0059-3