内受容感覚 (内受容システム) [Interoception] は身体内部の状態をとらえる感覚です。
これに対して身体外部からの情報をとらえるのは「外受容感覚」であり、視覚や触覚などの五感がその代表です。
この内受容感覚は、私たちの健康を維持する上でなぜ重要なのでしょうか。
体調の変化に対応する
私達の心身の状態は、日々変化しています。
もちろん、外的な状況も日々変化しているし、その中で内的な状態も日々変化しています。たとえば、女性の月経リズムなどは内的状態の変化の例です。婦人科系のシステムだけでなく、胃腸や循環器など、他のシステムも刻々に変化しています。その結果、トータルの体調も変化します。「生きることは変化すること」と言ってもよいでしょう。
このような内的な状態(簡単に言えば体調)の変化に、適切に対応できるかどうか。これが、日々ストレスの多い中で健康を維持できるかのポイントです。たとえば、「今日は体調がよいから、ちょっとがんばって仕事をしよう」とか、「今日はどうも体調がよくないから、少しセーブしよう」とか「早めに休もう」というように、日々の体調の変化に応じて行動することで、健康を維持することができます。
では、適切に対応できるかできないかは、何によって決まるのでしょうか?
いわゆる「レジリエンス(回復力)」とか「適応力」「対応力」「(状況に対する)柔軟性」「適切な対処行動」などが関係することは容易に想像できます。しかし、その前に重要なことは、状態を適切にとらえる(把握する)ことです。状態を適切にとらえて初めて、柔軟に「適応する」「対応する」「対処する」その結果「回復する」ということがあります。もちろん、把握さえできればそれだけでよいわけではありませんが、適切に対応する基本です。
対応の基盤としての 内受容感覚
この「内的状態の適切な把握」を担うのが「内受容感覚」です。
内受容感覚は、一次的には、筋肉の緊張度、体温、血糖値、血圧や心拍などが含まれます( = 低次の 内受容感覚 )。
一次感覚をもとにした、総合的な「体調の良さ」や「体調の悪さ」も内受容感覚に含まれます ( = 高次の 内受容感覚 ) 。
これらの感覚は、私たちが自分自身の健康状態を認識・把握し、維持するために必要不可欠です。
具体的には…
- 内受容感覚によって、自身の体調の変化に応じた活動の調整ができる。
- 自身の身体の異常や不調を適切に捉えられると、健康上の問題に早期に気づき、早目の対処につながる。
- 運動や栄養摂取などの生活習慣による変化を感じとるため、生活習慣の適切な調整により、健康維持につながる。
といった点が挙げられます。
意思決定や直観的選択と 内受容感覚
私達は、日々生きる中で、さまざまな選択をし、意思決定をしています。
この中には、「誰と生涯を共にするか」「どの会社で働くか」「手術を受けるか否か」などの大きな選択から、「今日何を食べるか」「次に何をするか」「休むか続けるか」などの日々の小さなチョイスまで、さまざまなレベルがあります。
よく考えて決断する大きな選択、総合的な判断などは、直感的なものを参考にしながら、人の意見や状況の大局的に判断して決断します。これは、かなり高次レベルの判断や選択です。一方、目の前にある食べ物を食べるかどうか、次にどう行動するかなどの小さなチョイスは、あまり深く考えずに直観的に選択することが多いでしょう。これらの直観的選択や意思決定には、身体的レベルからの情報が大きく関与することが明らかになってきました。
A ダマシオ (Antonio Damasio) の「ソマティックマーカー仮説(Somatic Marker Hypothesis)」は、感情や経験に基づく身体的な反応(ソマティックマーカー)が意思決定に影響を与えるという仮説です。「ソマティック」とは、身体的なということです。ここで言われる「ソマティックマーカー」は、過去の経験から生じる身体的な感覚や反応であり、内受容感覚が大きく関与します。ダマシオは、ソマティックマーカーが私達の意思決定において重要な役割を果たし、合理的な判断に必要な情報を提供すると主張しました。
私達の選択や意思決定は、健康維持のみならず人生に大きく影響しますから、内受容感覚がいかに重要か分かるでしょう。
ストレス関連疾患や生活習慣病との関係
さらに、内受容感覚は、ストレス関連疾患、精神疾患や生活習慣病など、さまざまな疾患の病態に関与することが分かってきました。つまり、この内受容感覚が適切に機能しないとこれらの病気の発症につながり、内受容感覚の働きが予後に関係する可能性が高いのです。たとえば、うつ病ではこの内受容感覚の鈍化が認められ、頭痛、胃腸の不調、めまいなど、うつ病に伴うさまざまな身体症状に関係していると考えられます。また、心身症では症状の認知バイアスなどに関係し、症状と相関することが認められています。
また、生活習慣病の一つである心不全においては、適切な運動を中心とした「在宅リハビリテーション」がその予後を左右します。そのリハビリテーションの効果に、この内受容感覚が大きく関与することが研究によって判明しています。心不全に限らず、さまざまな生活習慣病では、自宅での食事や運動などの自己管理が最も重要です。たとえば、糖尿病では薬やインスリンも重要ですが、自宅で血糖を測定しながら、食事カロリーをコントロールしたり、適度な運動を行えるかどうかが、その予後に大きく影響します。
このような自宅でのリハビリテーションや自己管理には、内受容感覚 が大きく影響します。
なぜかというと、体調の変化を適切にとらえてその体調に応じた運動を行う、血糖コントロールの状況に応じた食事を調整するなど、身体の状態を適切にとらえること(= 内受容感覚)が、自己管理の基盤になるからです。
したがって、これらの疾患のコントロールや治療においても、この内受容感覚が大きなカギを握ると考えられ、内受容感覚を適切にする治療法の開発が期待され、検討されているところです。
このように、内受容感覚は、私たちの身体や心の健康を維持する基盤となり、選択や意思決定にも関与する、きわめて重要な機能なのです。
(Psychosomatic Labo, https://psychosom.net/column/interoception2, Jun 2023)
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アレキシソミア<こころとからだの気づき>研究会
http://body-thinking.com/alexisomia/
文献
Kanbara, K., Fukunaga, M. Links among emotional awareness, somatic awareness and autonomic homeostatic processing. BioPsychoSocial Med 10, 16 (2016). https://doi.org/10.1186/s13030-016-0059-3
Miyazaki S. and others, Heartbeat tracking task performance, an indicator of interoceptive accuracy, is associated with improvement of exercise tolerance in patients undergoing home-based cardiac rehabilitation, European Heart Journal – Digital Health, Vol 3, 2, 2022, https://doi.org/10.1093/ehjdh/ztac008