COLUMN

内受容感覚 と 心身医学

  • 「体調が良い」「体調がよくない」
  • 「緊張している」「リラックスしている」
  • 「お腹が空いている・満腹だ」

このようなからだの内部の生理的な状態を捉える感覚システムを「 内受容感覚 」 (inteoception)といいます。

いわば「からだの内部センサー」です。「自分のからだの状態くらい、自分でよくわかっている」と思うかもしれません。でも、「疲れているのにそれに気づかない」など、意外にわかってないことも多いのです。体調が悪いのに、それに気づかずがんばり過ぎてしまうと、ついには倒れてしまいます。この内部センサーは、健康を維持する上でとても重要です。

内受容感覚 の2つのレベル

内受容感覚 には、大きく以下の2つのレベルがあります。

  • 自分では気づかない、無意識レベルの内受容感覚
  • 自分で気づくことができる、意識レベルの内受容感覚 (内受容感覚の気づき)

私達が意識しなくても、からだの内的な状態は捉えられていて、無意識のうちに調整されています。これが無意識のレベルの 内受容感覚 の働きです。たとえば、胃の中に食べ物が入って消化が必要な状態が感知されると、迷走神経が働いて胃腸の蠕動運動や消化活動が行われます。このような状態の感知は、あまり意識には上りません。これは 1つめの、無意識(意識下)レベルの内受容感覚によります。

しかし、あまりに多くの食べ物が胃の中に入って、胃がはちきれんばかりになると、胃の膨満感が意識化され、「これ以上は食べられない」という(意識上の)認識から「食べるのをやめる」という行動につながります。これは、2つめの、意識レベルの内受容感覚 です。これを「内受容感覚の気づき」(interoceptive awareness) と呼んで区別する場合もあります。

内受容感覚 の機序

では、どのようにしてからだの内部の状態をとらえているのでしょうか。近年の脳科学(ニューロサイエンス)の発展に伴って、内受容感覚の機序が少しずつ解明されてきました。

内受容感覚 のセンターは、「島皮質」「大脳辺縁系」など、自律神経などの生理的な調整機能を担う領域にあるようです。脳の機能的レベルでは、真ん中の大脳辺縁系のレベルが重要な役割を果たします。

これは、普通に意識される高次精神機能や認知機能に関与する部位よりも少し深いレベルで、普段の生活ではあまり意識していません。ですが、私たちは日々このセンサーのおかげで、心身の健康を維持しています。

こころとからだの「気づき」

意識に上って行動につながる心身の感覚を「気づき」(awareness)と呼ばれます。
前述の2つのレベルでは、2つめの「意識レベルの内受容感覚」に関係します。

自身の感情やからだへの「気づき」は、心身の健康やストレス関連疾患の治療においても重要です。これが適切でないと、ネガティブな感情に気づかずに発散できず、身体の不調につながってしまうこともあります。また、満腹なのに食べ過ぎて、心身の健康を壊してしまうこともあり、ダイエットにも関係します。

〇「感情への気づき」が低下した状態:自分がどんな感情を抱いているかに気づかない = 失感情症( アレキシサイミア )
〇「身体への気づき」が低下した状態:自分の体調の変化に気づきにくい = 失体感症( アレキシソミア )

と呼ばれていて、これらは心身症と関連が深い特徴の一つです。これらのについては、各項目のリンクも参照ください。内受容感覚は、これらの状態の生理基盤として重要です。

内受容感覚は感情の基盤

このように、内受容感覚 は心やからだへの気づきの基盤になっています。のみならず、喜怒哀楽などの「感情」の形成に深く関与するとされ、心理学でも研究が進められています。いうまでもなく、感情は生きていく上でとても重要なものです。この感情によって私達はより豊かで人間的な生活を送れます。

「感情は身体に根ざす」とも言われます。身体の調子がよいと、喜びや楽しいなどよい感情が生じやすくなり、身体の調子が悪いと、悲しみや怒りなどネガティブな感情が生じやすくなるのは、誰しも経験しているでしょう。

内受容感覚 がよいと心身への気づきもよく、自律神経などのからだの働きもよくなり、判断も適切にできます。さらには豊かな感情によって、より潤いのある生活が送れます。

このメカニズムがさらに解明されると、自分の心やからだと上手に向き合って健康を高める可能性が広がり、医療においては、ストレス関連疾患へのよりよいアプローチが見えてくるのではと期待されています。

(Kanbara K, Psychosomatic Labo, https://psychosom.net/column/interoception, Jan 2022)

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関連プロジェクト

アレキシソミア<こころとからだの気づき>研究会
 http://body-thinking.com/alexisomia/

文献

Kanbara, K., Fukunaga, M. Links among emotional awareness, somatic awareness and autonomic homeostatic processing. BioPsychoSocial Med 10, 16 (2016). https://doi.org/10.1186/s13030-016-0059-3