COLUMN

児童期・思春期 (青年期) の心身医学

児童期・思春期は、大人と違ってこころもからだも発達の途上にあり、発達段階や環境要因が心身の健康に影響を与えやすい時期です。したがってその理解と、発達段階に応じた支援が必要です。心身医学の基本概念である「心身相関」(こころとからだの関係)や心身相関の病態をもつ「心身症」においても、その点を考慮する必要があります。

幼児期から思春期にかけての心身の発達

幼児期から思春期までの年齢区分

※「児童期」は一般に出生~12歳までを指し、乳児期、幼児期、学童期に分けられます。

  • 幼児期:1歳~6歳 心身の発達が急速に進む時期であり、養育環境が大きな影響を与えます。
  • 学童期:6歳~12歳 学業や社会性の発達が重要な時期です。
  • 青年期:12歳~(18歳)責任感や自立心が芽生え、友情や恋愛とともに大人への準備の時期です。  
  • 思春期:11歳前後~18歳前後 子供から大人への移行期で、心身共に大きな変化が起こります。多感で感情が不安定になりやすく、関連して身体も不安定になりやすい時期です。

児童期~思春期における中枢神経系の発達

児童期から思春期は、中枢神経系(脳や脊髄)の発達が特に重要な段階です。中枢神経系の発達により、徐々に人間としての行動や社会的適応が可能となります。以下は、中枢神経系の発達におけるポイントです。

  1. ニューロンの髄鞘化
    中枢神経系の発達において、ニューロン(神経細胞)の「髄鞘化」が起こります。「髄鞘」は神経細胞の軸索を覆う絶縁物質であり、情報の伝達を効率的に行う役割を果たします。髄鞘がない神経の情報伝達は各駅停車、髄鞘があるそれは快速電車にたとえられ、小さい子どもは情報の伝達がまだ遅いため、会話や判断などがゆっくりしています。この過程は生後に始まり、特に幼少期から思春期にかけて進行します。
  2. 神経回路網の形成
    脳内の神経回路網が徐々に形成されます。神経回路はニューロン同士がつながり情報を伝達するネットワークであり、学習や記憶、行動の制御に関与します。幼少期から思春期にかけて、神経回路網が形成され、適切な機能を発揮するようになります。
  3. シナプスの新生と増加
    シナプスはニューロン同士が接続する部位であり、情報伝達のポイントとなる構造です。幼少期から思春期にかけて、新しいシナプスが形成されたり、不要なシナプスが削除される「刈り込み」が行われます。この過程によって、神経回路の効率的な機能が確立されます。生後に知能、感覚、運動能力が著しく発達する霊長類ではこの過程が特に重要で、回路形成の異常は、さまざまな発達障害の原因と考えられています。
  4. 脳の特定領域の発達
    前頭葉や側頭葉など脳の特定領域の発達も重要です。前頭葉は思考や判断、行動の調整に関与し、社会的行動や感情の制御に重要です。側頭葉は言語や視覚、聴覚などの機能を司り、情報処理や記憶形成に関わります。これらの脳領域の発達が進むことで、適切な行動や社会適応が可能となります。

児童期/思春期における行動異常と重要な疾患

各年齢段階で好発しやすい行動異常など

それぞれの年齢段階での主な行動異常や疾患について、心身医学の観点からまとめました(もちろん、全ての子どもがこれらを経験するわけではありません)。

乳児期(0-2歳)

  • 過度の泣きやすさ・夜泣き:乳児期の子供は、泣くことが唯一のコミュニケーション手段であり、問題があることを伝える方法です。しかし、それが過度であれば、問題を示す可能性があります。
  • 発育の遅れ:身体的、認知的、社会的、感情的な発育が期待される範囲内で進まない場合、潜在的な問題を示す可能性があります。

幼児期(2-5歳)

  • 言語発達の遅れ:この年齢では、子供は通常、言葉を学び、簡単な会話を始めます。遅れが見られる場合、何らかの発達障害を示唆する場合があります。
  • 過度の攻撃性:幼児期の子供は、自己主張を学ぶ一方、適切な社会的行動を理解するために成長と学習が必要です。しかし、過度の攻撃性は注意が必要です。
  • 分離不安:親から離れることに対する不安や恐怖が強く現れる症状です。
  • 臍辺痛:臍周辺に痛みや不快感を訴える症状が見られることがあります。
  • 便秘・下痢:腸の働きに関する問題が現れ、便秘や下痢やそれに伴う腹痛が繰り返し起こることがあります。

学童期(6-12歳)

  • 学習障害:読み書きや計算が困難など、学習に関連する問題が見られる場合、学習障害の可能性があります。
  • ADHD(注意欠陥・多動性障害):注意力が散漫で、落ち着きがなく、衝動性が強い子供は、ADHDの可能性があります。
  • チック:学童期に好発しやすい症状であり、不随意的な動作や発声が特徴です。
  • 起立性調節障害:不登校と関連しやすい障害です(下記)。
  • 不安障害やうつ病:不安障害やうつ病の初期症状が現れることがあり、初期に適切に対応する必要があります。

思春期

  • 食行動異常:過食や拒食などの食行動異常が起こりやすく、下記の摂食障害に至ることもあります。食行動は、人間の基本的な活動ですが、心理面が現れやすい行動の一つです。心の混乱は生活の乱れ、特に食行動の乱れにつながりやすく、ストレス発散のために過食(いわゆる「やけ食い」など)や偏食・間食が多くなったりします。
  • 心理的葛藤や不安定な状態(⇒ 転換性障害):意識下の心理的葛藤などが、聞こえない、見えない、倒れるなど、目につきやすい感覚・神経症状に転換される病態を「転換性障害」といわれます。古典的には「ヒステリー」と呼ばれていた病態です。思春期には、上述のような状況から心理的葛藤が生じやすく、それが意識上でうまく対処できないと、転換性障害となることがあります。

児童期・思春期において重要な疾患

  1. 気管支喘息
    気道の炎症や狭窄によって呼吸困難や喘鳴を引き起こす疾患です。発作性の喘息症状が特徴で、発作コントロールのための適切な管理が重要です。重症発作は命にかかわることもあります。アレルギーなどの生理的機序に加え、ストレスや心理的感作なども症状に関与します。
  2. アトピー性皮膚炎
    皮膚の乾燥やかゆみ、湿疹などの症状を引き起こすアレルギー性の皮膚疾患です。遺伝的要因や環境要因が関与し、適切なスキンケアやアレルギー対策が重要です。これも心理的要因によって増悪したり、ストレスによる搔破行動も増悪因子となり、心身医学的側面を持つ疾患の一つです。
  3. 起立性調節障害
    起立時にめまいや失神を引き起こす症候群で、小児においては、午前中のだるさや身体症状が不登校や学習の障害につながります。自律神経機能の異常とそれに伴う血液循環の異常が関与するとされます。
     背景にある自律神経などのリズム障害も重要で、「概日リズム睡眠・覚醒障害」と呼ばれる病態とも関連します。心理的要因による不登校と思われても、その背景に起立性調節障害が存在することがあり、心身両面からの評価やアプローチが重要です。
  4. 摂食障害
    摂食障害は、⾷⾏動異常とそれに伴う認知や情動の障害を主徴とした疾患です。思春期は、摂食障害が発症しやすい時期です。
    大きくわけると、過食(神経性過⾷症)拒食(神経性やせ症)がありますが、両者が入り混じったり、近年は非定型的な摂食障害もよくみかけます。摂食障害は心と身体の状態や症状が密接に関与しあっており、心身両面からの支援や治療が必要です。
    詳しい情報は、摂食障害情報ポータルサイトにもあるので、参照してください。
  5. 消化器心身症
    「胃腸は心の鏡」といわれ、消化器系の疾患、特に過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアなどの機能性疾患はストレスの関与が大きく、心身症の代表的な疾患群です。
     大人でも重要ですが、小児・児童期においては、言語的表現によるストレス対処が苦手なケースが多く、腹痛や下痢などの消化器症状に表れやすい傾向があります(「お腹が痛い」と言って学校に行かないなど)。また思春期は、前述のような心理的な不安定さが消化管機能に関連しやすく、上記の摂食障害とも関連して機能性消化管障害となりやすい時期です。
  6. 転換性障害
    思春期においては、身体症状(運動障害や感覚障害)を主とする転換性障害が現れることがあります。ストレスや心理的な要因が身体症状として表れる疾患であり、心理的支援が必要です。

児童期/思春期における心身医学的対応のポイント

子どもや思春期・青年期の健康管理においては、疾患の早期発見や迅速な対応など、成人や老年期に比べて注意すべき点があります。この時期の心身医学的対応のポイントを以下にまとめました。

  1. 全人的アプローチ
    • この時期に限ったことではありませんが、こころとからだは関係しあって発達するため、心身両面と環境・社会的要因も含めてとらえ、全人的にアプローチします。
      • 心と体の両面から子どもの健康を支える。
      • 症状だけでなく、その子の生活背景、家族関係、学校環境などにも目を向ける。
  2. 発達段階の理解
    • 前述の神経系の発達に基づき、児童期や思春期特有の心理的・身体的変化を理解する。
      発達段階の特徴を理解せずに対応するのと、よく理解して対応するのとでは異なってきます。
    • そのうえで、年齢に応じた対応を心がけます。
  3. コミュニケーションの重視
    • 信頼関係を築くためのコミュニケーションを取る。
      子どもは特に言語的表現が苦手であったり、大人に比べて十分でないことが多く、「言わないからそう思っていない」とは限りません。非言語的コミュニケーションも含め、一方的でないコミュニケーションを心掛ける必要があります。
    • 親や学校とも連携し、支援体制を整える。
      子どもを支える周囲の人達の役割が大きく、それらの人達との連携が重要です。
  4. プライバシーの尊重
    • 思春期は多感であり、自己意識が高まるため、プライバシーへの適切な配慮が必要です。
      一旦信頼関係が崩れると、なかなか取り戻すのが困難なことがあります。
  5. 教育的介入
    • 成人に比べて心身の健康についての基本的理解に乏しいことも多く、わかりやすく繰り返して教育する必要があります。何でも親や周囲がやってあげるのがよいとは限りません。自主的な自己管理や問題解決がなければ、継続的な支援につながりません。
      • 健康に関する教育を通じて、自己管理能力や問題解決能力を育む。
      • ストレスマネジメントやリラクセーション技法を教える。
  6. 早期介入と予防
    • この時期の対応はタイミングが極めて重要です。例えば統合失調症の発症を見逃すなど、時期を逃すと生涯にわたって影響が残ることがあります。
      • 問題の早期発見と対応で、将来的なトラブルを防ぐ。
      • 定期的な健康チェックやスクリーニングを実施する。
  7. 多職種連携
    • 医師、心理職、看護師、学校教員、社会福祉士など、多職種でのチームアプローチをとる。
      特に公認心理師が国家資格化されてから「多職種連携」が重要なキーワードとなっています。互いの職種の特徴を理解し尊重し合いながら、全体として機能する視点が求められます。
  8. 支援の継続性と柔軟性
    • 短期間、一時的な対応にとどまらず、継続的なフォローアップを行う。心身共に日々変化する時期であるだけに、今日の対応が明日も有効とは限りません。個別性や変化に対応しながら、柔軟かつ継続的な対応が求められます。

(Kanbara K, Psychosomatic Labo/ LABs Psychosom Med, https://psychosom.net/adolescense, March 2024)