身体の病気(疾患)の中で、ストレス(心理社会的因子)によって、よくなったり悪くなったりする度合いが大きいものを 心身症 といいます。心療内科では、心身症に対して、心と身体の関係性を考慮してアプローチを行います。
心身症 の定義
日本心身医学会 (1991) の定義ではこのようになっています。
身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、器質的、ないし機能的障害が認められる病態をいう。
日本心身医学会 (1991)
たとえば、「(慢性)胃炎」という疾患を考えてみます。
胃炎は、今日ではピロリ菌の影響が大きいとされますが、アスピリンなど薬剤の影響も受けます。また、食生活や、心配や不安などの心理的因子、飲酒や喫煙、体質なども影響します。不摂生な食生活(食べ過ぎや飲みすぎ)で「胃が荒れる」といったこともあるでしょう。一方、来週は難しい試験があって「胃が痛い」などと言われるように、胃の痛みをストレスの代名詞のようにも使われます。
つまり、胃炎の発症や経過に、ストレスなどの心理社会的因子が大きく関係する場合もあれば(図の右寄りの赤で囲んだ部分)、ピロリ菌や薬物などのようにそれほど関係しない場合もある(図の左寄り)、ということです。大きく関係する場合は心身症としての側面が大きいので、保険傷病名としても
- 慢性胃炎(心身症)
と表記され、心身症としての扱いが可能になります。
すべての疾患は 心身症?
古来より「病は気から」と言われますが、どんな病気でも多かれ少なかれ ストレス など心理社会的な影響を受けます。つまりすべての疾患は 心身症 とも言えます。
たとえば、コロナウィルス感染症でも、免疫力低下によって経過が悪くなったり、免疫力が高ければ軽症で済んだりします。この免疫はストレスの影響を大きく受けます。しかし、感染症を心身症として扱うことは多くないでしょう。心身症としての側面があるものの、その度合いが小さいなど臨床的意義が小さい場合、心身症として扱うことは適切ではありません。
いくら「病は気から」といっても、何でもかんでも「ストレス性」などとするのは問題です。
疾病構造の変化
古来よりさまざまな病気があり、その病気に心理社会的側面が一定の割合であったのですが、社会の複雑化などに伴って、心理社会的側面を考慮すべき病気の割合が増えてきました。
今でも保健衛生が問題となる途上国などでは、公衆衛生や通常の疾患へのアプローチが中心です。しかし、先進国を中心に高度に複雑化した社会では、生活習慣病や慢性疾患が増え、ストレスの影響を受ける疾患の割合が年々大きくなっています。医学が進歩して多くの疾患が治療できるようになった分、複雑な疾患が相対的に増えたとも言えます。
このような疾病構造の変化の中で、ストレスなど心理社会面と疾患の相互作用に対応するため、心身医学や 心療内科 が必要になってきたのです。