COLUMN

Online communication and psychosomatic medicine

コロナパンデミックは人間の「 コミュニケーション 」 を大きく変えた。
このことがもららす意味を 心身医学・心療内科 の観点からみてみたい。

感染性疾患 vs 非感染性疾患

感染症は “Communicable Disease” (伝染性の疾患)と呼ばれるのに対して、
生活習慣病などは “Non Communicable Disease (NCD)” (非伝染性の疾患)と呼ばれる。
(⇒ 「非感染性疾患 Non Communicable Disease (NCD)と 心身医学」
前者は人から人へ伝染するが、後者は伝染しない病気、という意味だ。

人は哺乳類の中でも「コミュニケーション」を特徴とする生き物である。他の動物に比べ、言葉でコミュニケーションをとり、社会生活を営む。ヒトにとってコミュニケーションは生きる上で必須であり、その重要度は高い。ウィルスはそのコミュニケーションを自らの拡大に利用する。ウィルスのパンデミックによって、我々人間のコミュニケーションの変化を余儀なくされたのは、ある意味必然である。

オンライン コミュニケーション

対面によるコミュニケーションに代わって、オンラインのコミュニケーションが台頭した。
「オンライン授業」「オンライン会議」「オンライン診療」「オンライン面談」「オンライン飲み会」から「オンライン旅行」まである。もともとSNSが下地にあった “Z世代” にとって、オンラインコミュニケーションは抵抗なく受け入れられたかもしれない。

オンライン コミュニケーション

これによって移動の手間が省け、いつでもどこでも会議や打ち合わせができるようになり、都会から地方への推移など、オンラインコミュニケーションがもたらしたプラスの側面も大きい。これまで会えなかった人とも、オンラインだから会えたということもある。心療内科に来られる患者さんの中にも、対面ではうまく振舞えないが、オンラインなら、それが適度なクッションとなって振る舞いやすい、という人もいる。

一方で、オンライン授業ではニュアンスがわかりにくく、また、生活が乱れてけじめもつけにくいから、対面授業に戻して欲しいという声も耳にした。オンラインではどうも実感がわかず、コミュニケーションが希薄になったという人も多い。上にあげたさまざまな「オンライン○○」の中でも、これはオンラインでは難しいと分かってきたものもある。

コミュニケーション のレベル

コミュニケーションにもいろんなレベルがある。
言葉によるコミュニケーションから、表情や動作など非言語的コミュニケーションなどである。言葉によるコミュニケーションでも、明確に言葉にできるものから、「あー」とか「うーん」という低次元の言葉(というより音)までさまざまである。非言語でも、身体的な接触を伴うコミュニケーションもあれば、接触を伴わない雰囲気や、「第六感」のようなものもある。

前述のように、「言葉」によるコミュニケーションが人間の最大の特徴であり、最も高次レベルのコミュニケーションである。これがために、人間は他の動物に比べ、格段に大きな社会を形成することができた。しかしながら、さまざまな詐欺などに代表されるように、言葉だけでは真に信頼を伴う人間関係は築きにくい。言葉だけならいくらでも偽れるが、直接会って話すとその言葉の真偽も見極めやすい。相手の目や表情を見ながらの非言語的コミュニケーションや、五感を介したコミュニケーションが、真に信頼を伴う人間関係には必要なのだ。

古典的な心理学や精神分析でも、自覚できる意識上にあるものは氷山の一角であり、その下にある無意識レベルのものが実はとても大きいとされてきた。心身医学では、意識に上る(自覚できる)身体症状でも、その背景にある意識下(無意識レベル)の心理状態が重要視される。ストレスが意識上の対処行動などで処理できず、意識下の歪みにつながることを、「暗在の情動プロセス」と言われる。言葉などでの発散が苦手な人が、内面に心理的歪みをため込むようなイメージだ。この意識下のプロセスは身体症状につながりやすく、「心身相関」の機序の一つとして重要なのだ。

対面 vs オンライン コミュニケーション

状況によってさまざまな制約はあるが、対面では全てのレベルでのコミュニケーションが可能である。いわば、「フルチャンネルのコミュニケーション」である。しかし、オンラインではその制約が大きくなる。いわば「限定的なチャンネルによるコミュニケーション」である。表情もカメラを通したもので全部を捉えられないことが多いし、雰囲気のようなものはとらえにくい。五感についても、「ハプティクス」のような試みはあるものの、現時点では難しく、身体レベルのコミュニケーションはほぼ不可能である。

では、いつでも「フルチャンネルのコミュニケーション」が必要かというと、そうでもない。状況によっては、チャンネルを絞った方がスムーズに疎通できることもある。フルチャンネルのコミュニケーションでは情報が多すぎて、取捨選択が難しく、混乱をきたしてしまう人もいる。特に発達障害の傾向のある人は、チャンネルが多すぎると混乱するようだ。

それぞれのコミュニケーションの利点や欠点、得意・不得意を知って、使い分けることが重要だろう。たとえば、重要な相談、結婚相手を見定める、大切な人と信頼や絆を深める、などの場面では、非言語的など低次のコミュニケーションが可能な対面が必要である。一方、情報交換やビジネス上のやりとりなど、言語的コミュニケーションだけでカバーできる場合はオンラインで問題なく、移動などのコストを考えるとその方が効率的だろう。

オンラインコミュニケーションが台頭することで、それでも可能なコミュニケーションと対面によらなければならないコミュニケーションの違いがより明確になり、人と人のコミュニケーションの本当の意味が明確になることは、心身医学的に意味が大きい。意識上の言語レベル、表情や行動のレベル、意識下の情動プロセスなど、コミュニケーションの本質的な理解につながるからである。

(Psychosomatic Labo, Psychosom.net, Jan 2023)