アレキシサイミア と 内受容感覚 ー ICPM2026 シンポジウムより

国際心身医学会 ICPM2026@福岡国際会議場 において、シンポジウム: アレキシサイミアと内受容感覚 / Alexithymia and Interoception を開催いたしました。

日本で International College of Psychosomatic Medicine (ICPM) が開催されるのは約20年ぶりです。
本学会の講演内容は一般公開されておりませんので、公開の範囲内で概要をお知らせするとともに、今なぜこのテーマなのか、また、心身医学・心療内科や関連する領域においてなぜこれが重要なのか、その趣旨などを概説したいと思います。

公開されているシンポジウムの内容は下記です。

Alexithymia and Interoception: Emotion, Body Awareness, and Stress-Related Disorders in Psychosomatic Medicine

Chairs:
Kenji Kanbara ( Psychosomatic Medicine, Faculty of Medicine, Kagawa University) 
 Interoception and stress-related disorders in psychosomatic medicine
Yuri Terasawa ( Department of Psychology, Keio University)
 Alexithymia as a Disconnection Between Interoception and Linguistic Concepts
Discussant: Yoshiya Moriguchi (Japan Psychiatric Neuroimaging Center, Assoc.)

  • DSY04-1 Alexithymia 3.0 and the clinical challenge of transforming intolerable into tolerable affective responses
    Richard David Lane
    Department of Psychiatry, University of Arizona College of Medicine, Tucson, AZ, USA
  • DSY04-2 Alexithymia: Toward an experimental, processual affective science with effective interventions
    Olivier Luminet
    UCLouvain – Research Institute for Psychological Science
  • DSY04-3 Affect and personality traits associated with Alexithymia: Findings from self-reported assessments and a structured interview
    Gen Komaki
    Dept. of Clinical Laboratories, Fukuoka Shin-Mizumaki Hospital

なぜいま アレキシサイミア や 内受容感覚 が重要なのか?

現代社会では、少子高齢化や長寿化、生活環境の変化などに伴い、疾病構造も大きく変化しています。
⇒ 非感染性の疾患(Non-Communicable diseases) と 心身医学

■ Communicable diseases(感染性疾患):主に感染症
■ Non-communicable diseases (NCDs 非感染性疾患) :循環器疾患、がん、糖尿病、慢性呼吸器疾患などの慢性疾患

感染症(Communicable Diseases)の重要性は今も変わりませんが、循環器疾患、がん、糖尿病などに代表される非感染性疾患(Non-Communicable Diseases:NCDs)が、疾病負担や死因の大きな部分を占めるようになっています。(図1:赤色が非感染性疾患/NCDs, 緑色が感染性疾患・妊産婦・新生児・栄養関連疾患)

図1. 世界の死因構造の推移 Source: IHME, Global Burden of Disease Study 2023 (2025); Our World in Data.

ストレス(心理社会的因子)は、こうした慢性疾患の発症や経過にさまざまな形で関与し、心身症や機能性身体症状などとも密接に関連しています。身体の状態は感情や心理状態に影響し、逆に感情やストレスの処理の仕方も、自律神経系や内分泌系などを介して身体状態に影響します。

図2. ストレス・社会・環境と疾患

ここで重要なのは、私たちが自分自身の感情や身体の状態を、どのように感じ、理解し、調節しているかです。

身体の状態をどのようにとらえるかは感情体験に影響し、一方で、感情や認知のあり方もまた、身体からのシグナルにどのように注意が向けられ、解釈され、自覚されるかに影響します。

つまり、
「ストレス」 ⇔ 「感情」 ⇔ 「身体の知覚・気づき」
は、互いに密接に関連し、これがストレスと疾患の関係を解くひとつの鍵になるのです。

感情や身体への「気づき」は、心身医学では以前から重要なテーマでした。自分の身体状態や感情状態への気づきが乏しいと、心理的な問題と身体症状との関係を理解したり、心身医学的アプローチにつなげるのが難しいからです。

近年、この「感情や身体への気づき」の神経生理学的基盤を理解する枠組みとして、内受容感覚(interoception)の研究が急速に発展しています。

身体感覚はどのように感情的な体験となるのか?

今回のシンポジウムでは、最初に次の問いを提示しました。

身体感覚情報はどのように感情的な体験となるのか?
 -- このプロセスが変化したり、損なわれたりすると、何が起こるのか?


How do bodily signals become emotional experience
  — and what happens when this process varies or becomes impaired?

これは基礎的な問いであると同時に、心身医学にとってきわめて臨床的な問いでもあります。
すなわち、このプロセスをどのように理解し、評価し、治療につなげることができるのか?
という問題です。

アレキシサイミア・アレキシソミア と 内受容感覚

自身の感情を認識し、表現することが困難な特徴は、長年にわたり「アレキシサイミア(失感情症)Alexithymia」として研究されてきました。

一方、日本の心身医学では、身体感覚や身体のニーズをどのように知覚し、理解するかという「身体の気づき」の重要性も議論されてきました。池見らは、感情だけでなく身体感覚への気づきの低下に着目し、「アレキシソミア(失体感症) Alexisomia」という臨床概念を提唱しました1)。

そして近年、この両者をより基礎的なレベルから考えるための重要な概念となっているのが、前述の 内受容感覚(interoception)です。内受容感覚とは、心拍、呼吸、内臓活動、体温、筋緊張などを含む身体内部の状態を感知し、脳内で表象し、解釈する一連のプロセスを指します2)。

内受容感覚の研究によって、身体内部の状態、身体感覚の自覚、感情体験、概念化・言語化がどのように結びついているのかを、神経科学や生理学を含めて検討できるようになってきました。

「アレキシサイミア」は一つの特性なのか?

この視点に立つと、アレキシサイミアを単一の固定的特徴として捉えるだけでは十分ではないでしょう。

例えば、「感情・身体への気づきの困難」といっても、

  • 身体・情動反応そのものの生成や調節の問題
  • 身体感覚への注意が乏しい
  • 生じた情動状態を感情として表象することが難しい
  • 感情を言語化することが難しい

といった、異なるレベルやプロセスの問題が考えられます。

また、感情や身体への気づきの「低下」だけでなく、情動や身体感覚への「過剰・過敏な反応」が問題になる場合もあります。本シンポジウムでも Luminet教授がこの点を論じました。

Laneらは、感情体験を「情動反応の生成」「情動反応の表象」「意識的アクセスに関する認知的制御」という3つのプロセスから捉えるモデルを提唱しました3)。今回のシンポジウムでは、Lane教授がこのモデルをもとに、アレキシサイミアの病態をどのように理解し、臨床に活用できるかについて講演しました。

この違いを明らかにすることができれば、アレキシサイミアの評価だけでなく、患者ごとにどのプロセスに働きかけるべきかという、よりよい治療(テーラーメイド治療)につながる可能性があります。

こころとからだのプロセスをつなぐ鍵としての内受容感覚

さらに、こうしたプロセスは、感情や身体の気づきの問題にとどまりません。
身体内部の状態をどのように感じ、解釈し、調節するかという内受容感覚システムは、ストレスへの反応や回復、さらには身体症状にも関係します。

そのため、内受容感覚は、

身体状態・反応 ⇔ 身体感覚 ⇔ 感情体験 ⇔ 心理(認知・概念・言語)

という一連のプロセスを通じて、ストレス関連疾患や心身症、機能性身体症状の発症や経過に関与していると考えられます。

図3, 身体状態・内受容感覚・感情体験と心理プロセスの相互関係(概念図)

したがって、アレキシサイミアと内受容感覚の研究は、「こころとからだはどのようにつながっているのか」という心身医学の根本的な問いを、現代の神経科学・心理学・生理学から捉え直す試みともいえます。

今回のシンポジウムでは、アレキシサイミア研究と内受容感覚研究の現在地を整理しながら、この問いを基礎研究と臨床の両面から検討しました。

(Kanbara K, LABs Psychosomatic Medicine, https://psychosom.net/alexithymia-interoception, Oct. 2026)


References
1) Ikemi Y, Ikemi A. An oriental point of view in psychosomatic medicine. Psychotherapy and Psychosomatics. 1986;45(3):118–126.

2) Craig AD. How do you feel? Interoception: the sense of the physiological condition of the body. Nature Reviews Neuroscience. 2002;3(8):655–666.

3) Lane RD. Alexithymia 3.0: reimagining alexithymia from a medical perspective. BioPsychoSocial Medicine. 2020;14:21.

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