RESEARCH

ストレス 関連疾患 発症リスク要因の心身医学的検討

ソーシャルメディア (SNS) AI などにより、急速かつ高度に情報化された社会において、人類はその史上、これまで経験していないくらい複雑で、生物としての「ヒト」の想定を超えるような ストレス 状況にさらされています。

それに加えて、2019年からのコロナパンデミック(COVID-19)は、人類に大きな脅威をもたらし、後遺症によって苦しむ人もまだまだ後を絶ちません。一段落ついたとはいえ、私達は心身ともに大きなゆさぶりを余儀なくされ、今なおそのストレス状況は続いているといえるでしょう。

そのような状況の中、機能性疾患や心身症をはじめとするストレス関連疾患や、生活習慣病などの慢性疾患の比重が増加しています。これらの疾患では、いわゆる 「ストレス」 、もう少し固い言葉では「心理・社会的因子」といわれる要因と、それら疾患の病態の関係は、一対一対応ではない非線形かつ複雑なシステムであるため、客観的評価が困難です。

本研究では、これまでの心療内科外来でのストレスアセスメントのデータベースを用いて、

  • どのようなストレス要因が、ストレス関連疾患の発症や病態により関与するのか?
     <疾患発症や維持・増悪のリスク要因・予測因子は何か>
  • QOL(生活の質)や仕事や家事など、社会機能の低下に関与するのはどのような因子か?
     <QOLや社会機能低下のリスク要因・予測因子は何か>
  • 一つの要因ではなく複数の要因の組み合わせやパターンが関与するのではないか?
    どのような因子の組み合わせやパターンが影響するのか?
  • 心身症などのストレス関連疾患だけでなく、生活習慣病など一般的な慢性身体疾患の増悪に関与する要因は何か?

といったリサーチクエスチョンについて、心身医学の観点から検討を重ねています。

研究の目的

本研究の目的は、①ストレス関運疾患におけるストレス反応の病態を明らかにし、②発症リスク要因の関与の度合いや関係性を解明すること。またそれによって、③ストレス関連疾患における治療的ストラテジーを確立し、④発症を予防するストレスマネージメントやライフスタイルの確立を目指すことです。

これによって、上述のストレス社会を心身ともに健康に乗り切る方法を模索しています。

研究の方法:データサイエンスによる検討

このような多変量、多層レベル、比較的大量のデータの解析については、近年の 機械学習、深層学習やAIなどによる データサイエンス に基づく解析が重要です。

当講座では、関運医療機関や関連講座と運携し、心療内科外来におけるストレス評価を、心身症や機能性疾患などのストレス関連疾患患者及び対照としての健常人に対して行ってきました。

このストレス評価は、複数の系統にまたがる生理指標のストレス反応のプロファイルと、症状、罹病期閻、仕事など社会機能の程度、心理的評価やQOLなどを組み合わせたもので、
「精神生理学的ストレスプロファイル」[Psychophysiological Stress Profile: (PSP)]神原ほか,心身医学,2005; Kanbara et al., Psychosomatic Medicine, 2007)と呼んでいます。
現在も外来診療と併せてデータを蓄積し続けています。

このデータベース<生理的ストレス反応と心理評価や臨床情報の多変量データ>を用いて、以下のような方法を実施もしくは検討しています。

  • 機械学習を含めた大規模データ解析の手法により、ストレス関連疾患に特徴的なストレス反応バターンや、心理・疫学的因子の組み合せを特定する。
  • それらのストレス関連因子のバターンから、ストレス関連疾患発症リスク要因モデルを作成する。
  • 新たな対象にそのモデルを適用し、モデルの妥当性を検証する。
  • モデルの疾患リスク予測などの臨床応用を検討する。
  • モデルをもとに、ストレス関運疾患の予防的ストラテジーの確立を目指す。

研究の展望: ストレス を人生のスパイスに

今日は、冒頭で述べたような複雑なストレス社会ではありますが、人間にはストレス状況に適応し、ストレスを人生のスパイスにする力が本来備わっています。料理において、スパイスは量を間違えると大変ですが、適度であれば欠かせません。このような適応的な働きをアロスタシスとも呼ばれます。

ストレスを人生のスパイスにする方法を、データサイエンスの力を使って明らかにし、今日のポストコロナや不安の時代を乗り切る智慧を、心身医学的に探っていきたいと思います。

(Psychosomatic Labo, https://psychosom.net/research/stress-disease, May, 2023)

関連プロジェクト

機械学習を用いた生理的ストレス反応のパターン分析と臨床的ストレス反応モデルの構築
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20K03462/
[2020-2024 科学研究費補助金基盤研究C]

機能性身体症候群における精神生理学的評価と心理的評価を用いた病態の検討
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22570228/
[2010-2012 科学研究費補助金基盤研究C]