COLUMN

こころとからだ

心身医学 は 「 こころとからだ の関係」を重視した医学です。
この関係性を理解することは、心身医学の理解において大変重要です。

こころとからだ の関係 : 心身相関

人間には身体的側面(からだ)と、心理的側面(こころ)があります。
・身体(からだ)は、人の目に見える、物質的な側面であり、
・心(こころ)は目に見えない、非物質的な側面です。
人が心の中でどんなことを考えているか、誰にもわかりません。しかし、私達はその言動や身体の状態などを通して、その心をうかがい知ろうとしています。

この 「 こころとからだ の関係」を「心身相関」と言われます。

心身医学でよく用いられる例として<うるし(漆)アレルギー>の話があります。
うるしの木の下を通るだけでアレルギーが出るケースで、うるしではなく他の木だと暗示をしてうるしの木の下を通ったら、アレルギーはでなかった。しかし他のうるしではない木を、「これはうるしだ」と暗示を与えて通ったら、うるしのアレルギーが出たという実際の例です。

また、日本人に昔から多い「神経性胃炎」、今日では「機能性ディスペプシア」と言われます。胃は最もストレスの影響を受けやすい臓器の一つです。いわゆるストレスが重なると、胃酸が増えたり、胃の動きが悪くなって胃酸が停滞してたまりやすくなったりして、胃炎や胃潰瘍が起きやすくなります。

こころとからだ は、私達の想像する以上に密接につながっているのです。

こころとからだ は2つの影!? – David Bohm の譬え

私たちのこころもからだも常に変化していて、固定したものではありません。生きるということは変化するということ。ついさっきまで悲しんでいても、もう笑っている。どんな心の状態も、ずっとは続きません。それに伴って身体の状態も変化します。

身体の状態も刻々と変わっています。昨日の体調と今日の体調が違うのはもちろん、筋肉が緊張したり緩んだり、ドキドキして心臓が速くなったり遅くなったり、胃腸の状態もどんどん変化します。そして、身体の状態がよいと気分もよくなるなど、身体の変化は心の変化を伴います。

人間は こころとからだ が一体となった存在であり、この身体(からだ)と心理(こころ)は分離できるものではありません。古来より「心身一如」とも言われます。

米国の物理学者で、哲学や心理学にも影響を及ぼしたDavid Bohmは、心と身体の関係を次のように譬えています1)

「透明な四壁で囲まれた水槽の中を、一匹の魚が遊泳してるとき、互いに直角になる2つの側面に映し出された魚の姿が心と身体であり、魚が人間の実体である。」

2つの壁に映った影は、一方が動けば他方も動く、互いに切っても切れない関係にあります。 心が緊張すると筋肉も緊張し、心が安らぐと身体もゆるみます。このように心が変化すると身体が変化し、身体が変化すると心も必ず変化します。

この譬えを通してBohmは、「身心は相互影響ではなく、むしろ一体となって総体を形成する」と述べています。

「こころを扱う」ことと「からだを扱うこと」

医療・医学は身体的側面を扱うことが多く、心理学はその名の通り、心理的側面を扱います。例えば、薬によって身体の状態がよくなり、症状が軽減すると、心理的にも不安が減って楽になるでしょう。逆に、身体の状態が悪くなって痛みなどの症状が強くなれば、心理的な不安は強くなり、恐怖心を覚えたりするでしょう。これがさらなる症状の悪化を導くこともあります。

臨床心理学では、心理的支援によって心理面に介入しますが、心理的な不安が減って楽になれば、身体面でも心拍が緩やかになったり筋緊張が緩和するなどの変化が生じます。

このように、身体的に介入しても必ず心理的変化が生じるし、心理的に介入しても必ず身体的変化が生じます。言葉を変えれば、「身体を扱うということは心を扱うことになり、心を扱うということは身体を扱うことになる」のです。なので、心だけを扱うセラピストであっても、身体を扱うことになる、という視点を持ちながら行うことが重要です。

心身医学 でもこのような視点を大切にしながら、心と身体を分けないアプローチを目指します。薬を使うときでも「この薬には、〇〇の作用があります」と、その機序を説明することで、その効き方も変わってきます。このような面を治療的に扱うのです。

心と身体の一方のみを見ると、車の片輪だけを走らせるようなアプローチになりかねないので、両輪をバランスよく見る視点が重要です。

参考文献
  1. 河合隼雄「心理療法と身体」 岩波書店 2000